PINK MARTINI/je dis oui!

リーダー・トーマスからのメッセージ

PINK MARTINI | ピンク・マティーニ

Interview

ピンク・マティーニ
トーマス・M・ローダーデール インタビュー Part2

取材・構成・佐藤利明(オトナの歌謡曲プロデューサー)

 2016年11月18日に欧米でリリースした9枚目のオリジナル・アルバム「ジュ・ディ・ウイ!〜ピンク・マティーニの素晴らしき世界」も、これまでのピンク・マティーニのスタイルでありながら、8ヶ国語の言語、多彩なゲストを迎えている。

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トーマス アルバムのコンセプト? この(特別版のジャケットの)フェルトのタッチだよ(笑)実はコンセプトはないんだ。僕はいつもノープランだからね。というか、これは音楽だから、僕が聴きたいアルバムを作るんだ。例えば、由紀さおりさんとのアルバム「1969」も、聴いていると僕自身、とてもハッピーになるんだ。なぜかって? その全てが好きだから。素晴らしいんだ! アルバムに収録されているもの全てが好きなんだ。あのアルバムでは、全て日本語でレコーディングしたって部分も大好きだし、あの伝説の歌手の歌声を、聞いた日のことはよく覚えている。

 ポートランドでの「1969」のレコーディング現場でのトーマスは、誰よりも由紀さおりのビッグ・ファンであり、レジェンドとの共演を心の底から喜び、楽しんでいた。
 日本では未発売だが、2014年にリリースした“Dream a Little Dream”では、「サウンド・オブ・ミュージック」のモデルとなったトラップ一家の子孫であるフォン・トラップスをフィチャー。今回の「ジュ・ディ・ウイ!」日本版ボーナストラックには、彼らの「黒ネコのタンゴ」を収録している。

 (“DREAM A LITTLE DREAM”の時)フォン・トラップスのレコーディングを聞いた時は、あのアルバムを誇りに思ったよ。彼らに最初に会ったのが、アルバムを作る時だというのは、僕にとってはとてもビューティフルなことだ。そのゴールは、尊敬の念を抱きながら、その文化的な美しさを高めること。アルバムのあらゆる部分に、たくさんの情趣があって、現実の世界はとても破滅的だし、厳しいだけに、現実でそれを見つけるのは難しいよね。愛おしく見えるもの、ハピネスを見つけるのは難しい。
 きっと、多くの人が現実的になってしまって、その愛しい、ハピネスなものを探さないというか、徐々に自分の目的や、自分の方向性を探すのをやめてしまうよね。今のアメリカは特に、教育システムもあまり良くないから、人々は自分が何に向いているのか、何が好きなのかを探すチャンスが失われていると思う。そして、過去から学ぶチャンスを失っているんだ。

 過去の美しいもの、素晴らしい音楽で現在に繋いでくれる。それを音楽で実践しているのが、ピンク・マティーニであり、トーマスのスタイルでもある。それらすべてが、トーマスの琴線に触れた“美しいもの”なのである。

トーマス オールド・ファッションになっちゃったけど、未だにそれが好きなんだ。ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールのコンサートで、いま、アブダビ首長国に住んでいる、「フニィスマ・ディ」のアラビア語の歌詞を書いたイアード・カシムが「この曲を録音した、僕のユダヤ人の友達、アリ・シャピロを紹介できることを、誇りに思う」って言っていた。アラブの人が書いた詞をユダヤ人が歌う。素晴らしい瞬間だった。それはとても、素晴らしいことだよね。僕らの文化では、そうそうあることではないからね。

 「ジュ・ディ・ウイ!」では世界8カ国語の曲が、見事な並び方で収録されている。まさにノーボーダー、国境を越えて美しい曲が次々と気持ち良く登場、僕たちの琴線を心地よく刺激してくれる。本当の意味でのワールド・スタンダードでもあるが、心地良く楽しめる曲順へのこだわりについて、聞いてみた。

トーマス 曲順は、必然なんだよね。全てのアルバムは、例えば車を運転している時に、スムースな運転ができるように、そうあるべきなんだよ。ドライブしながらアルバムを聴いていて、急にぐいっと鞭に引っ張られたり、止まったりじゃなくて、スーっと谷の中を通り抜けるみたいに、スムースに次の場所へと進めるようにしたいんだ。スムースな流れの中で聴いてもらいたい。ディスコアルバムみたいにはしたくないわけ。

 以前、トーマスからアルバムの曲の並びについて、どれがいいか? 尋ねられたことがある。どれがドライブに一番ふさわしいかと。ピンク・マティーニのアルバムの心地よさは、そのトーマスのこだわりにある。それは日本語で言う「気持ちいい」ものだと伝えると。

トーマス そう、それいいね“キモチイイ”。それが一番だよ!

Part3に続く

ピンク・マティーニ
トーマス・M・ローダーデール インタビュー Part1

取材・構成・佐藤利明(オトナの歌謡曲プロデューサー)

 ピンク・マティーニは今年で結成二十二年目を迎える。リーダーでピアニスト、世界の音楽史に造詣の深いトーマス・ローダーデールに、1997年、ファースト・アルバム「サンパティーク」をリリースしてから二十年となる現在。ピンク・マティーニは、どんなグループに成長したかを聞いた。

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トーマス 僕はもともと政治の世界に入ろうと思っていたんだ。ポートランドの市長になりたかったんだ。その思いが徐々につのってきて、政治家のティーパーティの演奏を始めた。だからバンドは、最初は政治のために演奏していたんだよ。二年ほどポートランドで演奏して、ファースト・アルバムをリリースしたら、すぐにフランスで有名になって、海外で多くの時間を過ごすようになったけど、最初の頃はポートランド市内で演奏するだけだった。だから、そもそも何も期待していなかったから、どんな結果にもがっかりすることはなかったんだ。あるがまま、だよ。

 ピンク・マティーニは、スローペースでアルバムをリリースしてきた。そのスタイルも多彩。アメリカのスタンダードや日本の歌謡曲。フランス語やポルトガル語の歌などを、レコーディング。ワールド・ツアーで演奏しながら、自分たちのレパートリーにしてきた。

トーマス だから、アルバムや他のこともすべて、人生を歩んでいくように、そのとき、そのときに対応し、判断して歩んできた。アルバムだって、この先の計画を明確に持って作っていたわけではないしね。僕は五年先とか、一年先ですら、そういう計画を持ったことはないんだ。いつも「今」というものに賭けてるけど、それは新しいことであって、前もってゴールを決めている訳じゃない。だから悪い結果にはならなかった。もし、僕が何か意図的にやろうとしていたら、失敗に絶望的になったりするだろうけど。何の期待も具体的なゴールもないから、シンプルに日々の本能的直感で、なんとかなったんだと思う。それがこれまで、僕が経験したすべてなんだ。

 トーマスは常に“現在”に生きている。“期待は失望の母”とばかりに、常に今のインプレッションを大事にしながら、古き良き音楽の黄金時代のスタンダードをピックアップして、僕たちにプレゼンテーションしてくれている。

トーマス ピンク・マティーニは、ポップ・カルチャーとは真逆の方向にディレクションしていると思う。オールドファッションのサウンドだったり、別の言語の歌詞だったり、ダイナ・ショアみたいな、五十年代、六十年代の過去のムードを大事にして、こういう音楽を演奏するということを、一体、どのようにしたら成立するんだろう? というプレゼンテーションであり、僕たちの意思表示みたいなもんだろうけど、それが二十二年続いてきた。今のところはね。

 まるで祝祭空間のようなピンク・マティーニのコンサートでは、トーマスのいうオールドファッションのサウンドをリアルタイムで体験してきた世代、映画を通じて知った世代、そしてトーマスのセレクトを通して知った世代、あらゆる世代が、心地よい音楽に身を委ねている。

トーマス そのスタイルが今でも大好きだし、これまで考えたこともないアイデアがたくさん生まれているし。どう言っていいかわからないけど、いつがラストなのか、ゴールなのも判らないしね。このやり方で進んでいけばいいかな?と思っているんだ。それが一番だと思っている。
 それに、いろんなレジェンド達とのコラボレーションがあったし、こうしたコラボレーションは、僕らの情熱を維持してくれるんだ。例えば、由紀さおりさんとの「1969」のコラボは素晴らしくて、成立するまでにはたくさんのルールや制約があったけど、その幾つかのルールや制約は破ることができたんだ。しかも、由紀さおりさんとのコラボがそうした問題を越えていって、とてもグレイトだったよ。日本ということでは、佐良直美さん、美輪明宏さんともやりたいし、由紀さおりさんとも別なことをやってみたい。

レジェンド達との共演! それがピンク・マティーニのアルバムやコンサートの魅力である。現在の音楽やアーティストに対して、トーマスはどう感じているのか?

トーマス もちろん若いアーティストにも注目しているよ。世界中の若いアーティストも大好きだけど、やっぱり僕は過去のものへの興味の方が、よりあるかもしれない。若い世代は、普通の歴史的認識がなかったり、過去のものに興味を持っていなかったりするけど、僕は黄金時代のものが大好き、オールド・スタイルのものへの興味がよりあるんだ。現代が抱えている問題点は、過去の出来事にちゃんと注意を払うことができない、ということだね。だから、同じミステイクを繰り返したりする。なぜなら過去の世代からのインテリジェンスを持っていないから、同じミステイクを繰り返すんだ。問題だよね。

Part2に続く